受験の季節である。
うちにもひとり中学3年の娘がいる。
最近、特に足の裏を眺めていると、自分の足の裏でも見てるように思えるのだけれど、性格や行動を客観的に観れば、やはり私ひとりの分身ではないな・・・と思う所が数々ある。
しかし、自分側の身内が見れば私に似ていて、主人側の身内が見れば間違いなくお前の子だと言い、子供とは不思議な存在である。
その愛すべき娘も、ごく普通に高校受験を迎えたのだが、少々難あり・・・。
小学生の頃から忘れ物大王であったが、年々磨きがかかっているように思う。
それが手伝ってか、提出物が揃わない事しばしば。
絶対評価の今、通知表には見事にその成果が表示され、私はかつて見た事のない、まさしくアヒルのレースのスタートラインを彷彿させる数字の並びに最初こそ驚いたが、徐々に慣れてしまった。
だが、アヒルならまだ良かったらしい。
娘の成績表は、段々、煙たなびく工業地帯化してゆくのであった。
そんな話を誰にしても、提出物を出さないなんて大物だとか、心配ないなどとヒトゴトな反応なのだが、何がどのように大丈夫だと言うのだろう。
出したくなくて出していないのなら救われる。
彼女はそうではない。
どの教科担任の先生も、課題を出して、いつ迄という期限を均等に与えているはず。
それに応えてないのは娘の方だ。
毎日何の教科があって、宿題が出たか、ノート提出などあったかを書き出させ、うちに帰って確認しても『なにもない』と答えるのに、実際は提出するものはあり、出されていない。
あと私に出来るのは、毎日授業のあった先生に電話して確認するか、彼女と共に授業を受け出させるしかないのだ。
元々試験というものに弱いから、勉強してもしなくても、いつも結果はあまり変わらない。
だったら試験勉強などしなくて良いから、授業に参加して、提出物だけ出してくれと言っても、個人面談になれば必ず、ほとんどの物が出ていないと言われる。
何か、頭の中で欠けているパーツがあるのかもしれない。
普段の言動に違和感があるとか、喜怒哀楽の反応がおかしいとかいうことは、私には感じられない。
どこに行っても、自分に合う友達を見つけてくるし、例えその場に誰もいなくても、ひとりでいられる。
計算が出来ないわけでも、問答が成り立たないということもない。
ただ、ひとりでやらなければいけない段階になると、集中力がついていかなくなるように思う。
それは、中学1年2年の夏休みなどを利用して、英語や国語の底上げを試みて感じた事だった。
一問一答一緒にやっている事にはついてくるのだが、それを毎日自ら進めていくことが出来ない。
授業など、その日途中からついてゆけなくなったら、もう諦めてしまう。
その状態でノートを出せと言われても、出来ていないものは出さないでいたらしい。
出せと言われた日に出してナンボの事なのだと何回言っても、心に響かない。
仮にその場は反省したとしても、気持ちが長続きしない上、過ぎてしまえば綺麗に消え去り、負の蓄積がまるでなく、だから成績表に表れても、次に結び付かない。
私の厳しさ故に委縮するのかと、何も言わないようにすれば、やらなくても良いのだと勘違いし、余計に何もしない。
だったら、どうしたら良かったと言うのだろう。
もしも、彼女を精神的に追い詰めているものがあるとしたら、悪循環である。
5月のおわり、学校カウンセラーの先生に相談をした。
どこか病院をという前に、という事を踏まえて話したのだが、私の話を1時間聞き、娘とも1度会ったきり、何の進展もなく、そのまま時だけが過ぎてゆくのであった。
前期の成績が出て、担任の先生からは、
『この成績では、入れる高校はありませんので、もしも見つかったら報告して下さい』
と厳しく言い渡された。
その時はまだ、どこでも良いから、普通の高等学校へ潜り込ませる事を考えていたのだが、先生からのやる気を出させる為(と信じたい)の叱咤激励も、娘にとっては何の効果もないのだと確認しただけであった。
どんな低レベルの学校だって、また3年間、提出物とテストの結果で物事が進んでゆくのだろう。
何の解決もしないまま、普通の高校へ行ったところで、また同じような3年間を過ごすのではないか。
それで進級出来なかったり、大学へ進む事も望めないのだとしたら、さぞやつまらない学生生活の終わりを迎えるだろう。
そうして、真剣に発達障害等を診ていただける病院を探していた頃、これから娘を通わせようと思う学校の存在に目を向けるのだった。
主人と二人で学校見学へ行き、先生とお話させていただいたところ、ここなら安心して、彼女が彼女でいられると判断した。
実際に在校生がいる教室に体験入学させていただいたり、説明会に参加し、娘の『行きたい』という意思の確認もできた。
更に、一般入試でもスムーズに入学する事は出来るが、年内に推薦状を持って専願で願書を出せば『特別推薦』として面接だけの入試で済み、入学金の半額と試験の費用が免除されると聞き、省けるものは省きたいと願うのは、親として、いけないことであろうか。
というか、あんな成績で、推薦状って下さいと言っていいの?と思ったのだが、推薦状というのは、基本的には請求したら出してくれるものらしい。
現に、学校に全く行っていない子も、学校へは来ていてもクラスには馴染めないという子も請求して戴いている。
とりあえず、受ける側の学校にお願いしますと意思を示してから、面接受験迄ほぼ1ヶ月、土日や祝日臨時休暇を省いたら、あるようでない1ヶ月だから、最短の日に娘に推薦状の用紙と募集要項を持たせ、担任にお願いさせたところ
『こういう書類は親と一緒に持ってくるものだ』
と押し返されたらしい。
子供から連絡を受けた時、学校の近くにいたので、その日のうちに教室に残る先生に親子共々声をかけたら、先生曰く
『彼女、今日の昼休みにいきなりそれを渡すんですよ』
カチン・・・。
100歩譲って、突然に彼女が『推薦状下さい』と言ったとして、運悪くこんなデキの悪い生徒を受け持った担任としては『こういう類はこうするのが順序だ』と教えるのが仕事ではないのか?
うちの娘は、親と来いときいて、私を連れてきたのだ。
勿論、今日突然に行って、先生が帰ってしまったりして会えなかったとしても、娘がキチンと今日連れてきていいんですか?と聞かなかったから仕方がないのは承知である。
『すみません、上の子もいなくて、こういう場合どうしたら宜しいのかわかりません。どういう順番でお話をすべきかお伺いしに参りましたので、教えて戴けますか?』
この時点で、私の目は相当吊り上っていたように記憶している。
『だいたい、推薦状って誰でも貰えるもんじゃあありませんし』
ああ、そう・・・。
まずは、受検したい生徒の意思に保護者が同意をしているかの確認が必要らしい。
『先生から行けるところを探してくるよう言われて、何か所か見学にも行き、先週の土曜日に、ここにしたいとの本人の意思が確認出来ましたので、願書を出す迄はまだひと月近くありますが、1日2日では戴けないものだと思って、最短の今日に本人に持たせた次第です』
そして、推薦状を請求するには、それにふさわしい行動を取るよう記された誓約書などの書類提出が必要なのだが、その書類を手にする迄、それから2日を要した。
色々難しい言い回しだったので、これを空欄にしたまま持たせると、そのまま持ち帰って、更に日を費やしてしまう事が予想されるから、私が学校へ持っていくと決めた。
また突然に伺ったりすると、あれこれ慌てるだろうから電話したら
『今日は職員会議があって、何時に終わるかわかりません』
『終わった時間にご連絡いただければ、その後に伺います』
『その後、部活があるし・・・』
『終わってからでかまいませんが、目を通していただけませんか?』
『紙持ってくるだけですよね?お子さんに持たせていただければ結構なんですけど』
その紙は書き損じたら書き直しって書いてある。
ちゃんと書いて出さないといけないもんじゃあないのか?
『また持って帰ると日数かけてしまうし、お願いするのに急いで戴くようになってしまいますから』
としつっこくお願いして、ようやく会って戴けたのだが、そんなに部活が大事なら、3年生を受け持つべきではないように思える。
提出して1週間は、こちらからも何も言わずにおいた。
翌週月曜、娘が自主的に聞いてみたらしいが、『まだだ』という一言だった。
火曜には、『いつ頃になるかきいてこい』と行かせたら『作成中』という返事。
水曜夕方、ちょうど明日3年生の受検の為の仮の成績というのが出るという日、先生から電話があった。
『推薦状の件ですが、相変わらず、提出物が何も出ていないんですよ。他の教科担任に相談しても、彼女に推薦状?と首を傾げるばかりで・・・私も、こういった状態では他の学校へ行っても将来的に彼女が困る結果になると思うんですよね。しかも、特別推薦って枠ですし、私には推薦出来ません』
特別推薦って・・・そういう意味の『特別』と違うと思うんだけれども・・・。
『お言葉ですが、そういった提出物の類が普通に出せる人だったら、多分、通常の受検でも、やれるはずですよね。そういった事が出来ないんだって判断したから、普通の高校に行くのを諦めて、そこを探してきたんです』
どうしてそういう学校を選んだのかという質問が一切なかったので、私は、そこに至る経緯を手紙にして、学校指定の推薦状と一緒に、担任の先生に渡していた。
行き先の学校には、娘の2年半分の通知表を見せ、提出物がまるで駄目な点も説明した上で、安心して来るよう言われた事も手紙に書き記し、渡す時に口頭でも念を押して伝えている。
何より、提出物を揃えるのを条件としていたのならば、わざわざ今日迄何も言わずに『結局出なかった』のを確認する為に、1週間以上無駄に待つ必要があったのか?
『何しろ、もう成績は出てしまいましたが、今迄出していない提出物を出して下さい』
時間が経つにつれ、腹の虫は治まりがつかない状態になっていった。
木曜日の午前中、校長先生にかいつまんでお話しさせていただいたたら、早々に学年主任の先生からお話をお伺いしたいと電話があり、午後、学校で内容をきいて戴けた。
というより、
『感情的になって、伝えそびれるといけませんので、(言い放たれた失礼の数々)文面にして参りました』
時間があったので、A4用紙2枚に内容を記して渡した。
それを目の前で読んだ学年主任の先生曰く、
『実は、話は良い方向に進んでます。校長とも面談する予定になってましたので』
と、担任の代わりに何度も『申し訳ありませんでした』と頭を下げるのであった。
私が学年主任に問いたかったのは、これが正しい時間と話の進み方かどうかである。
担任の口から学年主任や校長にどう伝わっていたか知らないが、少しはこちらの憤りは伝わったように思う。
しかしながら、いくら第3者に謝って戴いても、担任の先生に対して、今後感謝の気持ちは持てそうにない。
金曜日の夕方、担任の先生から
『急に決まったのでお嬢さんには伝えられなかったのですが、月曜の放課後、校長先生と面談することになりましたので』
急にって・・・ほんとに話は良い方向に進んでいたのかより、この人が国語を教える資格があるのかどうかの方が疑わしくなってきた。
そして昨日、やっと校長との面談が済んだそう。
『推薦状をお渡しする事に決まりました。これから調査書を作成するのですが、出願はいつ?』
これも何度も伝えたし、必要書類と日程が記された募集要項も預けてある。
『今週の土曜日に試験を受けるには、3日前迄の出願ですので、明後日が限界です』
『推薦状と書類は、出願の朝、行く方にお渡しする事になっていますので』
明日の朝、推薦状と調査書類を手にしたら、担任の先生にきいてみたい。
どこの家庭もこのように、ギリギリの日迄待たされて書類を受取るのか。
どれだけの日数があれば常識的だったのか。
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