フルコース(その4)
10月初めの早朝、叔母から電話が入った。
病院から呼ばれたというそれは、いよいよ『今日』だという知らせである。
人がこれから死んでゆくというのに、私は、朝から自分の家族の晩御飯の支度をし、とりあえずしなければならない事を済ませ、後は叔父が永久に目を瞑ったという連絡があったら葬儀屋さんに知らせて、打ち合わせに参加する迄、自宅待機をしていた。
待ってりゃいいんだけども・・・落ち着かないもんだよね。
実際に、これから葬儀をという場合、病院以外で亡くなった時には、死因等を調べる為に病院へ運ばれるわけなので、大体の出発地点は病院となる。
叔父のように病院にお世話になった上で亡くなっても、簡単な処置だとか、手続きもあるので、その間に葬儀社に電話して、お迎えをお願いしておく。
病院側は、早く出してしまいたいからか、提携の葬儀社を使って戴く流れに持っていきたいのか、動揺している遺族を急かす・・・というような話をよく耳にするが、既に決まった葬儀社がある事を伝えれば、多少モタモタしていても許されるようである。
高校生の頃、母が倒れた際に、生まれて初めて救急車を手配した。
『救急車を1台お願いします』
という緊張感は、小学生の時にラーメンの出前の電話を初めて任された時と同じに感じて、軽いんだか重いんだか、妙だったのを思い出す。
葬儀社に電話して
『病院にお迎えをお願いします』
と言った自分の声は、まるで自分が叔父に引導を渡したように聞こえて、やっぱり妙だった。
葬儀社さんから聞かれたのは、氏名、生年月日、宗派、そして、今いる病院名と搬送先が自宅なら住所程度。
後は、病院から連れて帰って、用意した布団に遺体を安置して、祭壇を設けて、お線香を焚いた後、細かく打ち合わせをしながら、ひとつひとつを決めてゆく。
今回は、半年前に一度見積って戴いているので、それを元に話を進めたが、見積自体は、遺族側が概算を知るのに必要なだけで、無くても問題ない。
但し、叔母のように事前に会員になっている場合には、会員証を提示しろという話になったりする。
『それがどこにしまっちゃったんだか・・・いえね、絶対捨ててないから』
・・・って、ほんの数ヶ月前の話なんだからさぁ。
棺の種類にも『おくりびと』で見たようにピンからキリまであり、一々カタログの中から『どれになさいますか?』と選ぶのだが、普通の白木の物を既に選択しているのに改めて確認するのは、悲しみに便乗してのランクアップを狙っているのかもしれない。
結構重要だったのは『花』。
祭壇の両側に『施主』だとか『子供一同』だとかの札を挿して並んだ、親戚が亡くなると、香典を出していても、後で別請求されるアレである。
『いくつ位必要なんでしょう?』
『最低左右併せて10基程あったら宜しいかと』
相場は、通常の物で一基15,750円、豪華版御所車タイプで31,500円。
実は、施主用に『豪華版』を『対』で勧められ、叔母は横に座る私に『どうなの?』という顔をチラリと向けた。
たかがと言っては何だが、花に63,000円、顔を見たくなる気持ちもわかる・・・。
『それって一般的なんでしょうか?』
『・・・まぁ寂しくないとおっしゃるのでしたら普通の花でも宜しいかと』
『じゃ、左に施主で、右に子供一同、普通のでいいです』
なんだかんだと10基位すぐ集まったのだが『最低10基』の意味は、お別れの時に判明することになる。
普通版の花でも10基並べると、祭壇の両側をほぼ埋め尽くしていたので、結構立派に見えた。
(なぁんだ、これで充分綺麗じゃん)
と思って眺めたのだが、この花の頭は、お別れの際全てチョン切られ、棺の中を飾る役目がある。
(少なくないっちゃないけど、もうちょっとあっても良かったかも?)
最低10基ってこういう意味か・・・などと、お花を顔の傍に飾りつつ思ったりする。
その花を1基1基並べる順を決める迄も色々あった。
上段の中心側から近親者を優先にするというので、発注書の一覧に番号を振って業者さんに渡している。
書かれた名前が間違えていたらとんでもないので、挿す前にまず文字を確認。
札を挿し終えたところで、これでいいのか最終確認なのだが、
『・・・・・何か変』
『え?順番違いますか?渡された順番で合ってますが・・・』
確かに合っているけれど、同格の人があっちゃこっちゃである。
『あの方とこの方はくっつけて、あれをこっちに固めて、それはあっち・・・』
せっかくキチンと並べて下さったのに、結局ひっちゃかめっちゃかでホントごめんなさいね、という感じであるが、ようやく落ち着いた。
花屋さんとの話の間に別の係の人が寄ってきて、印刷した『御挨拶状』の名前の確認をしろという。
これで間違いがなければ、通夜返しにセットして戴ける。
そんな事してる内に、親戚が集まり出して、あーでもないこーでもないと話し出し、着付けが済んだ叔母は、到着した坊さんと共に別室に消えてゆく。
遺族って・・・バタバタ忙しいもんだね。
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コメント
>悲しみに便乗してのランクアップを狙っているのかもしれない。
ここウケタ

・・・
って、笑っちゃうワケには行かないんですが
ウチもそうでした・・・
最初は「親父は借金だらけなんだから、安くすませる!」
な~んて言いながら。
いざ納骨の時に墓の納骨室見たら
親父の骨壺が一番豪華
だったり。
・・・
葬儀告別式も、結構豪華だったり。
請求書見てビックリだったり
コレって、犯罪に縁がないひとが捕まっちゃって
)

初めて弁護士を雇うようなモンだから。
(やや表現がキツイか
経験者の助言がないと、あとで
ってなコトになっちゃいますからね・・・
こういう時って、ホントにパニクってるから。
伯父の葬式のときは、
従兄弟の伯母には、バッチリとアドバイスしておきました(苦笑)
投稿: 843部隊 大隊長 | 2010年11月 9日 (火) 06時49分
大隊長殿 おはようございます
>こういう時って、ホントにパニクってるから
いやホントそうなんですよ。
落ち着いて話してるようで、聞いてる事は右から左ですからね。
葬儀屋さんに静かにアレとコレとって言われると、つい『はい』って了承しちゃいそうになるのです。
葬儀屋さんも隣に用心棒がいて、いちいち口出していたから、やり辛かったと思います。
投稿: 紫 | 2010年11月 9日 (火) 09時24分