領収書は貰っておかないと
知人のお宅でご馳走になり、そろそろ帰ろうと家を出たら、予報通りの雨であった。
駅迄歩いて15分。
いつもは躊躇なく歩く平坦な道のりだが、酔っていた主人が気前よく1,000円札を出し、
『タクシー乗るか』
と言ったのが始まりであった。
普段より多くお小遣いを貰った娘まで、
『じゃ、710円の・・・』
と10円玉を出したので、車内は良い塩梅に盛り上がっていた。
自宅で待つ義母に、先に風呂を沸かして入っておいてくれるように、娘の携帯から電話をさせたのも、騒動の原因のひとつとなる。
駅の少し手前でタクシーは止まり、お金を払った私が最後に降りて、ドアが閉まったと同時に娘が
『携帯忘れた』
『・・・はぃい?』
タクシーを振り返った時には、既に走り出していて、止める事は出来なかった。
不覚にも、ナンバーどころか、タクシー会社も判別出来ず、私に至っては車体の色すら記憶にない。
元々夜目には自信がない上、つまるところ、私も充分酔っていたわけである。
だいたいタクシー乗車中というのは、会話をしないことはないのだが、それぞれが車内ウォッチングしていて、降りた後で、
『あの人、写真と全然違ったよね』
とか、運転手さんのプロフィールを話題にする事が多いのだが、今日に限って、誰も見ていないし、金額がわかっているから領収書も戴いていない。
そんな中、主人だけは、車体が黄色かったと言うので、目の前を通る、黄色い車体のタクシー会社の電話番号を、その場でいくつか調べ、無線での呼びかけをお願いしたが、
『今、2回程続けて呼びかけてみましたが、該当車はありませんでした』
という、素っ気ない回答である。
タクシーに乗っていて、よく流れてくる無線の声と、運転手さんの反応の様子を思うに、失礼ながら
『こんな内容の無線、ちゃんと聞いてんのかな』
と思わずにはいられない。
しかしながら、1社は、
『仕事からあがる前に、車内清掃をしますので、そこで忘れ物が見つかる事がありますから見つかったらご連絡します』
と言って下さった。
いつまで此処にいても仕方がないので、とりあえず帰ろうと乗った電車内では、言うまでもなくグダグダと反省会が始まるのであった。
『お前が、どっかにぶら下げるって言うから、その機種にしたんだろうが』
と、今言ってもしょうがないって言葉は出るし、これ迄、娘と一緒に乗った電車などの座席を立った後に、帽子や傘やペットボトルなど様々な物が置き去りとなり、後から拾って降りた記憶が蘇る。
一緒にいればそうやって拾いも出来るが、そのまま無くなった物も数多いのであった。
揚げ句、
『俺がタクシー乗ろうなんて言ったから』
だとか
『あいつに電話かけさせたから』
そんな事を言い出したら、何もできないのはわかっているが、どうにも止まらない・・・。
なんてったって、2年割賦の契約をして、引き落としがまだ2回の携帯である。
もし見つからなかったら、使いもしない物に対してお金を払っていくことになるわけで、それがなんともバカらしい・・・。
そんな私の考えと違って、主人は、性質の悪い客に拾われて悪用されないかを心配している模様。
ま、停止するのは簡単だし、悪用ったって限界があるだろう。
結構前に、主人も携帯を落とした事がある。
原付バイクで近所に出掛けた時だったから、家に着いてすぐ気付き、通った道を探しに行ったら、交差点付近の電信柱に立てかけて置いてあったそう。
届けたら色々手続きが面倒だけれど、踏まれたり、蹴られたりしないように、親切な誰かが最寄りの電信柱に立てかけてくれたのだろう。
つい最近ではdocomoを持つ知人が落として、GPS機能で場所はある程度確定出来たが、結局戻らずじまいだった話も出た。
そうかGPSね、と自宅に戻ってからauに問い合わせたところ、娘の機種は対応しているし、電話の呼び出しは良好にするがGPSが機能していないとの返答だった。
それもどうして?という話だが、今は確認しようがない。
勿論こちらから何度もかけてみたが、乗車中ラジオが結構大きな音で流れていた記憶だけは鮮明で、あれじゃバイブの音なんて、とても気付かないだろう。
『運転手さん、ここに携帯の忘れ物があるよ』
なんて期待をしていたのだが、誰も言ってくれそうにないから諦めて就寝した。
朝、6時半、娘の携帯が出てきたという知らせを受けた。
それは、昨夜まだ出先の駅にいる時に問い合わせたタクシー会社で、
『呼びかけに該当する車はありませんね』
と答えてくれたきりのところであった。
数時間後、見つかったらご連絡しますと言って下さったタクシー会社からも、
『該当車を何台か当りましたし点検もしましたが、見つかりませんでした』
とわざわざ電話をいただいた。
世の中捨てたもんでもないらしいが、せめて領収書は貰っておかないと、騒ぎが大きくなるのを実感した私であった。
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